~もう一つのイフガオの旅~

最古の町キアンガンで
大戦の記憶と向き合う

No Ordinary Destinations in Ifugao
Tracing the Memories of the Second World War

マニラから夜行バスに揺られて9時間。イフガオ州(Ifugao)の州都ラガウェ(Lagawe)でトライシクルに乗り換えて約20分のところに、イフガオで最古の町キアンガン(Kiangan)はある。第二次世界大戦末期の1944年から第14方面軍司令官としてフィリピン戦の指揮を執った山下奉文(ともゆき)大将が降伏したことで知られる町である。イフガオ州というと、バナウエの棚田ばかりが有名だが、キアンガンにはイフガオの文化や歴史を学ぶことのできる施設がいくつもある。
まずは、大戦の終結を記念した建築物「キアンガン戦争追悼廟(Shrine)」。屋上展望台からは、戦時中にたくさんの人が命を落としたイフガオの山々とイブラオ川の雄大な景観を眺めることができる。建物の外壁には第二次大戦をモチーフとした巨大な木彫レリーフが展示されている。日本軍の残虐行為、山下大将の降伏、米軍マッカーサーによる解放と、平和にむけて両手を広げる女神のような女性像……。平和を希求するフィリピンの人たちの思いを表現している。
山下大将がキアンガンで投降した9月2日は、イフガオの人にとっては「ビクトリー・デイ(勝利の日)」だ。この日、州都のラガウェからキアンガンに向かう道沿いには、フィリピン、アメリカ、そして日本の国旗が飾られる。イフガオ州ではこの日は休日となっていて、キアンガン町内ではパレードが行われ、戦争追悼廟のグラウンドでは、コーディリエラ各地から退役軍人たちを招いて平和の式典が行われる。私は昨年、たまたまこの日に居合わせて式典を見に行ったが、日本からの招待客がいない中、日の丸も交えて3国の国旗がはためく平和式典に複雑な思いを抱いた。
戦争追悼廟敷地内には、コーディリエラ山岳地方の二つある国立博物館のうちの一つ、イフガオ博物館もある。イフガオに住む先住民の生活道具や装飾品などを展示している。自らもイフガオの出身という博物館ガイドのバネッサさんの説明は、自らの家族の体験やイフガオ人としての誇りなどに触れながら、親しみやすくわかりやすい。ディープな先住民族世界への入口として絶好だ。
山下大将が投降したというキブンガン・セントラル・スクールの一角には、古い建物を改装し、第二次大戦中のキアンガンでの出来事に関する資料や写真の展示がされている平和博物館がある。戦中の日米の戦闘の写真、降伏文書の写し、新聞記事、キアンガン出身の退役軍人の写真などに混ざって、10年ほど前にフィリピン人の骨が混入しているのではと問題になった遺骨収集の写真なども展示されているが、時系列がめちゃくちゃなうえ、説明書きがなくて残念だ。それでも、大戦の歴史から忘れ去られたかのようなこの小さなイフガオの田舎町に、第二次大戦に焦点を絞ったミニ博物館があるのは驚くべきことといっていいだろう。

先住民による伝統の手織りを復興

その平和博物館のすぐ近く、やはり使われて

平和博物館。キアンガン出身フィリピン抗日ゲリラの戦死者の名前が刻まれた碑。The Peace Museum and the monument to honor the deceased soldiers in the anti-Japanese guerrilla war

ナガカダンの棚田。Rice terraces in Nagacadan(Photo: Galdys Maximo)

いなかった小学校の古い校舎を改築してできたイフガオ先住民族教育センター が、地元NGO「SITMo(=Save Ifugao Terraces Movement)」の努力で素晴らしい展開を見せている。SITMo代表のマーロン・マーティン(Marlon Martin)氏は「本来は政府がこういった伝統文化の継承のための文化事業に予算をつけ、牽引すべき。でもそれができないのなら、自分たちの手でやれることから始める。手遅れにならないうちに」と語る。センターの見どころは、長らく息も絶え絶えの状態だった伝統の草木染めと手織りの復興プロジェクトによって甦ったキアンガンのイカット(アジアの絣 )織物の展示だ。「予算がないから展示物はみなコミュニティ住民からの借り物」(マーティン氏)という生活民具の展示室、寄付されたイフガオに関する資料などを閲覧できる資料室もオープンした。

イフガオ伝統の手織りについて解説するSITMo代表マーティン氏(左)。 Mr. Marlon Martin from SITMo (left) gives a talk on Ifugao’s traditional handweaving

キアンガンにも世界遺産に指定された棚田がある。ナガカダン(Nagacadan)の棚田だ。キアンガン町の中心からトライシクルで20分ほど。大戦中には米軍の空爆が激しさを増す中、イフガオの人も日本軍も、食糧を求めてこの美しい棚田のコミュニティを目指した。そしてさらに追い詰められ、ナガカダンから日本軍最後の地フンドアンに向かってジャングルの中の山道を入っていったのだ。今もまだ「ジャパニーズ・トレイル」と呼ばれるこのトレイルのトレッキングは6~8時間。地元のガイドとともに歩くこともできる。
(Cordillera Green Network 反町 眞理子)

先住民族教育センターのイフガオ伝統のイカット(絣織り)。Ifugao’s traditional Ikat at Indigenous Peoples Education Center

戦争追悼廟(War Memorial Shrine) 年中無休 開館時間8am~5pm 入場料20ペソ
イフガオ博物館(Ifugao Museum) 月曜休館 開館時間8am~5pm 入場無料
平和博物館(Peace Museum) 土・日休館 開館時間8am~5pm 入場無料
イフガオ先住民族教育センター(Indigenous Peoples Education Center)
土・日休館 開館時間 8am~ 5pm入場無料(寄付のみ)
問い合わせ:キアンガン町観光課 0915-812-1139 kiangantourism@gmail.com

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